つれづれなる技術屋日記

しがない技術屋。専門は情報工学で、「つれづれ技術屋」って呼んで。

今年印象に残った本 「働かないアリに意義がある!」

今年読んだ本で結構印象深かったのが、「働かないアリに意義がある!」。以前新聞で見かけて気にはなってたが、書店で平積みのコミック版を見かけた。1,2週ほどそのコミック版がなぜか印象に残ってて、何かの縁かと思ってコミック版を購入した。さらっと読んで(見て)、通常版の方で詳しく知った方が良いかなと考えて、結果的には文庫本とコミック版の両方とも購入した。 帯でのキャッチフレーズが、「サボるやつらが会社を救う!」、「7割は休んでいて、1割は一生働かない」。
そもそも自分が興味があってポツリポツリと本とかを買ってるものに、ミツバチなどの昆虫や動物が集団で組織体を形成する現象がある。「社会生物」とか呼ばれるもの。なお、最近は動物での自己犠牲的な挙動もあるようだけど、自分の興味はどちらかというと、そんなに賢くはなさそうな昆虫が共同作業できるメカニズムの方。そもそも遺伝子に組み込まれているのかとか、フェロモンのようなものに作業指示みたいなのがあるのかといった疑問が沸いていた。また、集団として統制が取れているように思えるが、その統制はどんなメカニズムなのかという疑問が沸いていた。 この本では、働かないアリは、いわばバックアップ要員だそうだ。ある閾値以上にならないと、働こうとはしない。ローテーションのようにしてるかと思ったら、キャッチフレーズにあるように、1割は一生働かないとのこと。個人的には、多少なんでだろうと思ったけど、その1割は非常に稀なリスクへの対応としているのかもしれない。(後述) また、ある特定の作業しかせず(役目が決まってて)、それがアリのような小さな脳でも対応できる理由のように書かれていた。なるほど~と思った。つまり自分の読み解いたイメージでは、作業はプログラムされてて、非常にシンプル。ほんの少し、状況に応じて各自の判断で行動できるようになっているといったイメージ。 ただし、働くアリを集めて集団にしたら、そのうちの大半は働かなくなるそうだ。つまり、人間組織で言われてるパレートの法則(または「8:2の法則」)が当てはまるというわけだ。もともとパレートの法則が、アリのような小さな脳での法則と考えると、人間って案外進化してないんだな~と思ってしまった。 なお、アリは年代によって役目が変わるらしい。若いうちは幼虫の世話、巣の維持、そして年を取ると餌取りで外へ。これを「齢間分業(れいかんぶんぎょう)」と呼ぶそうだ。高齢化したアリを外に出すのは危険ではあるが、全体的には最適というわけだ。上手い仕組みだと思いながらも、なぜそうなるかに言及が少なかったように思った。そもそも役目をスイッチするように遺伝子に組み込まれているような次元の話なのか、女王アリなどからのトリガーによるのか?? ちょっと気になった。というのも、自分の視点としては、役目がプログラムされていると考えると、それを入れ替えるメカニズムやタイミングが気になってるというわけだ。 あと、餌場までの道筋のフェロモンはアバウトだし、それを守らずに行動するアリがいるとの話も面白かった。そのアリのせいでより効率的な道が発見されたりする(ことがある)。また、集団が均一化しすぎると外敵に脆い。これはプロジェクトでのグループメンバー編成にも当てはまることだ。 なお、本では「ハミルトンの法則」に結構なページを割いている。ハチやアリでの真社会性を遺伝子的に説明するものだが、それまでの分かりやすかった説明から、急に難しいというか偏った話に受け取った。著者の以前の著作なり論文が関係しているかと思える。いろんな種類のアリの話も登場して、ハミルトンの法則のような真社会性昆虫の普遍的な話なのか個別種の話なのかが混乱してしまう時があった。章立てなどの工夫が欲しいと感じた。(コミック版ではハミルトンの法則などには触れて無くて、”サボるやつらが...”と言ったキャッチフレーズの説明としては分かりやすい構成になっていると考える。) ちなみに、この本を読む前に結構面白かったのが、NHKの「ダーウィンが来た」で放送された”ハキリアリ”の回だった。以下が公式ページ。 http://cgi2.nhk.or.jp/darwin/broadcasting/detail.cgi?sp=p320 以下は個人のブログだし、他での画像などもあるけど、番組内容が分かりやすい。 http://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-11546537205.html 道路整備担当のアリがいたり、情報収集のためのアリがいることなどが紹介された。また情報収集に関連して、音でのコミュニケーションを行っているらしいとの話もあった。思った以上に、分業が進んでいたり、集団活動のための術を用意していると感じた。

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なお、2つの写真は、帰省した際に壷のようなものをひっくり返したら、ぎっしりとアリが巣を作っていたもの。ひっくり返した時にアリが右往左往(左の写真)してたけど、翌朝にはアリの卵を含めて一匹もいなくなってた(右の写真)。 こんな緊急時にも働かない=動かないアリがいるのか少し気になったけど、余りに多くのアリだし動かないことの観察をどうするかすぐに思いつかずに調べることはしなかった。ただ個人的には、このような緊急時には動かないアリも動いたのではないかと思う。また、代わりの巣を作ってそこへ卵を運ぶのが普通だろうけど、巣が必要とか巣の作成の指示がどう行われたかも気になる。 ふと個人的に思うに、1割のアリは一生働かないとの事だが、一生働かないアリの中に今回の緊急時に備えて巣になりそうな所を探したり、巣へ卵を運ぶためのフェロモンを出すなど役目のアリがいるのかもしれない。翌朝にはすっかりいなくなったアリの風景を目にして、ふとそんなことを思ったがどうであろう。
「アリはなぜ、ちゃんと働くのか」という、こちらの本も参考になった。ただし訳本で、アリゾナ砂漠での様子での記載のため少し距離感を感じるかもしれない。

思うに、昨今は目先のことはやるが、長期的視野で行動する人や場合が少なくなっている。(自分もそうだが)手紙などで考えを述べるのが億劫になり、メールや電話で済ませてしまう。今や、TwitterやLINEといった小文字数や絵文字でのコミュニケーションが主体になっている。普段の生活だけなら問題視する必要も無いが、会社や学校でのやり取りもそうなってるから厄介だ。マニュアルや本に書いてあることを鸚鵡返しすることはできるが、問題解決やそれ以前の問題把握や問題分析になかなか着手しない。端的には、人間がアリ化してるような気分になる時がある。 規格やBOKの類では、作成側はより良いものへとの考えだろうが、更新したり斬新な考えを盛りこむことに目が行ってしまう。企業内の管理部門は、規格の遵守や社内標準化、ツールの導入という手段を目的のように考えて、(本来の目標よりも)遵守や標準化やツール導入に熱が入ってしまう。 学術系の学生や先生、そして企業内でも論文作成がノルマになっている感じの人達がいる。研究成果なら分かるが、自分にとって身近なソフトウェア品質やプロジェクトマネジメントでは、改善などの視点の乏しい論文も少なくないように感じる。そんな論文は、色んな文献のコピペが多くて、実施したり改善点が曖昧だ。 なお結構街中で時々目にするのは、道路わきの空き缶や、ひどいときには食べ掛けのカップ麺の容器。所かまわずと言うか、、、。中国などの動画ではもっとひどい場面を目にしたりする。言わば、”服を着たサル”。(”服を着たサル”は、栗本慎一郎著の「パンツをはいたサル」を捩ったものだが、そのでのパンツは人間が生み出した制度みたいな意図。) そんなこともふと考えさせられた。 「働かないアリに意義がある!」を通じて、人を含めた集団活動の根本部分のヒントを学んだ気がする。また、昨今の人々との対比に目が行ったのは有意義だったと考える。なお、「齢間分業」が形成されるメカニズムや緊急時も働かないかなど、気になることも出てきた。自分なりの勉強もだし、この本の続編とかが出るのなら少し期待したいと思う。

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