つれづれなる技術屋日記

しがない技術屋。専門は情報工学で、「つれづれ技術屋」って呼んで。

再考 バスタブ曲線

 


2、3ヶ月前から、バスタブ曲線ってなんだろうと考えるようになった。バスタブ曲線は、最初は故障が多くて、その後安定、そして終盤に再度故障が増えるというあの曲線。

 

ウィキペディアでの解説は以下。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%85%E9%9A%9C%E7%8E%87%E6%9B%B2%E7%B7%9A

 

ウィキでの図が左だけど、一般的には右の方の図(http://www.eonet.ne.jp/~hidarite/ce/anzen05.html より)に馴染みがあるだろう。

 

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ちなみに調べてみたら、初期とか終わりの方を直線で近似している図やその傾きを元に議論しているページもあった。

 

 

バスタブ曲線自体は何となく理解できるけど、最近バスタブ曲線の元々の”意図”や特に終盤(摩耗故障の発生する期間)での実計測したデータがあるんだろうかとか考えたりして、いくつか素朴な疑問が湧いてきた。(他にソフトウェアとの関係にも思いを馳せたが、そちらはまた別途。)

 

1)この図は、製造者側への図? 消費者側への図?

 

2)この図は、1つの装置や製品での故障を示している? あるいはいくつかのロットでの故障を示してる?

 

3)故障ではなくて、部品交換の必要性を言いたい?

 

製造者側にとって、装置や製品が終盤で故障が増大してしまうことへ対応することは考えにくい。右の図で言えば、耐用寿命を偶発故障期間内にしようとするだろう。

 

消費者にしてみれば、購入した商品/製品が最初故障だらけで、使用していても故障が起きるとなると使い続けるだろうか。保証期間内なら無償修理だが、消費者自身にとって許容できる故障率は低いはずである。そもそも初期不良なら交換だろう。初期に何度か(例えば2、3回)故障したら、交換とかキャンセルになる可能性がある。終盤でも同様かもしれないが、むしろ終盤では製造中止になってるであろうから、(部品保存期間内で修理してもらうとしても)使い続ける事が現実的には皆無である。

 

さらに言えば、消費者の手元で実際に使う商品が、初期に使っていて故障率が下がることは考えにくい。昔であれば真空管とかが安定して画像や音質が良くなるとかはあったかもしれないが、それらを故障の低減と呼べるか疑問である。また、昨今での電気製品等ではデジタル化が進んだこともあって、使用して性能がアップすること自体が考えにくい。そう考えると、バスタブ曲線は、消費者の購入した各商品/製品の故障頻度を示しているとは考えにくい。

 

例えば、自分の購入した時計、テレビ、自家用車などの故障が、バスタブ曲線に当てはまるか考えてみると良い。多少購入直後に故障に遭遇するだろうけど、1,2回と離散的なのが普通だ。しばらくしての偶発故障期間の時での偶発故障に遭遇することがあるか、、、。自動車でのブレーキの利きが悪くなったなどはあるだろうが、それを故障というべきなのだろうか。調整の範疇とも言えなくはない。個人購入の商品の範疇で、その商品がバスタブ曲線に沿って故障するようなものを思い付かないのが実情だろう。(あったら教えて欲しいくらい。)

 

製造者から見た生産でのロットも同様で、同一ロットで部品交換による故障率低減が現実的か疑問に思えた。故障が多いと、そのロット全体の出荷停止などが行われる。管理上も、同一ロット内で細部の故障率低減を図るより、次ロットで部品を変更して故障率の低減を図るだろう。

 

つまり、バスタブ曲線は、その製品のライフサイクルでの故障率と考えるべきだろう。多少最初の頃は各ロットでの故障率があるが、いくつかロット生産するに従い故障率が低くなる。

 

製品のライフサイクルの他には、ビジネスユースの機械等で保守契約の形態のものは、バスタブ曲線の前半部分は当てはまるかも知れない。特に新規開発だと部品が安定しないので、メンテナンスでカバーする。偶発故障期間内は、各部品のMTBFなどを元にして交換して駆動させる。

 

 

そうなると、バスタブ曲線での終盤(摩耗故障の発生する期間)での、市場での故障率を上げない(偶発故障期間内程度に抑える)にはどうすればいいか? 故障率が上がることを部品交換で対応することが考えられるが、現実的だろうか? 特に部品コストとかそのための人件費、さらには技術革新で当時の部品そのものが入手できない事態は充分に考えられる。

 

その対応として、”モデルチェンジ”が行われていると考えるが、どうであろう。いくつかのロットを経て故障率を下げたとしても、初期のロットは経年により故障率が増えてくる。いくつかのロットで生産しても、傍目にはその商品の故障が増えてくる。傍目でも違いを分かるようにするにはモデルチェンジが一番妥当と思われる。ビジネスユースの機械等では、商品(システム)の寿命を見越しての計画を考えるし、想定とずれた場合には次期商品(システム)への移行の交渉も一つの手段と言える。

 

そんなことを考えたら、バスタブ曲線は、現象の説明と言うよりも、初期や終盤の故障率への対応を検討する材料に思えてきた。計画時の想定もそうだし、想定と実際の故障率の乖離の計測やそれへのリスク対応の検討などだ。

 

ちなみに、市場故障率の測定や判断のためには”ワイブル試験紙”が使用されることが多い。実際に品質部門で利用しているところも多いだろう。偶発故障期間内に該当するかの判断に利用していると考える。ちなみに個人的に、ワイブル試験紙とバスタブ曲線とを関連づけたりバスタブ曲線の曲線関数が無いのか気になったけど、まだ見つかってない。

 

 

さて、以前から社会インフラでのバスタブ曲線も頭の隅にあったが、ここ2,3日では笹子トンネルの事故が発生して、多少確信めいたことに気が付いた。ビルやトンネルの建築物も、故障という点ではバスタブ曲線に絡めても良いかもしれない。当初では基本部分での故障の類はないとしても、細部での使いにくさで手直しすることは考えられる。それを故障率と呼ぶかは別として。

 

しかし、問題は終盤。後になると、基本部分すら故障が発生する。バスタブ曲線での偶発故障期間内で点検と補修は行うだろうし対応できるだろうが、終盤をどう考えるか、、、。部品交換で対応できない時期が来ることを念頭に置くべきだろう。その時期での対応方法は、やはり立て替え。立て替えといっても、大きなビルや大型トンネル(さらには海底トンネル)の場合、ビルの破壊や旧トンネルをどう塞ぐかも大きな課題になる。また、想定しているインフラ寿命との差異の検出やその対応検討も重要だ。

 

ちなみに社会インフラの減価償却での耐用年数を調べたら、鉄筋コンクリートのトンネルは75年だった。 (線路設備としてのは60年。蛇足だろうが飛行機は、主金属製150t超で10年。) 減価償却として決められた耐用年数だろうが、実際耐用できるかの確認は必要だろう。そんな点の見直しも絡めないと、インフラ建て直しは難しいかもしれない。

 

さらっとしか読まなかったが、この類の点検は、当初は2年毎だが、その後は5年毎になるようだ。それでは終盤の故障率の変化を識別できないだろう。当初のインフラ寿命と環境等で異なることだってある。例えば、地震の多発は、何らかの影響を及ぼすと思われる。今回のトンネル事故に関連して調べて、終盤に関する点検や対応の記載が余りに少なくて(見つからないレベル)、昔これらを検討するときに品質系の人もいただろうしバスタブ曲線のことは知っていただろうにと思えてしまった。

 

思うに、バスタブ曲線は人の一生のようなものかも知れない。故障率は、病気や怪我。最初の頃は小児科、偶発故障期間内の後半辺りは生活習慣病みたいな用語が該当するだろうか。年をとれば人間ドックの周期は短くなるし、うまく自己治癒力でカバーできない事も増えてくる。社会インフラや製品寿命の長い商品の場合は、そんなことも意識する必要があるだろうと考えた。

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