つれづれなる技術屋日記

しがない技術屋。専門は情報工学で、「つれづれ技術屋」って呼んで。

Day2プロジェクトの本 システム統合の「正攻法」

言わずと知れた、三菱東京UFJ銀行でのDay2プロジェクトの様子を描いた本である。

 

本の帯での文言は以下。

 

  将来に残すべき実務マニュアルの完全版!

  ITプロフェッショナルが明かす100の創意工夫

 

  6000人の技術者、開発期間1000日超

  2500億円が投じられた-

  三菱東京UFJ銀行「Day2」の全記録

 

買ったのはずっと前で、販売された当日か翌日くらい。急いで買いに行ったら、コンピュータ関連の棚になくて少し焦った。店員さんに聞いたら在庫ありで、金融関係の棚。すぐに読んだが、こちらのブログに感想を書くのが遅くなってしまった。その間には、PMIフォーラムでDay2の講演を聴く機会も得た。また、実は、今月での別の会合でも、Day2プロジェクトの講演を聴くチャンスがある。ちょっと遅くなったが、今月の講演前に、ブログで感想をまとめておこうと思った次第。

 

まず、総括。この本は、Day2プロジェクトでの技術的な側面も書いてはあるが、どちらかというとプロジェクト管理、しかも品質とか進捗の管理を掘り下げている。しかも、チーム形成とかチーム一体感の維持などにページが割かれており、非常に参考になる。また、銀行頭取や会長による関与の記述もあるかと思えば、システム構築を行った開発会社の取り組みとか創意工夫についても書かれている。開発会社のそれは、開発会社自信が書いたかインタビューによるもののようで、結構ざっくばらんな記述もあって面白いし参考になった。

 

 

Day2プロジェクトの前にDay1プロジェクトがあり、Day1プロジェクトの稼働からDay2プロジェクト開始の5ヶ月間に、プロジェクトの組織作り(含む協力体制)を行っている。その際に、当初外部の開発委託のメンバー数を2500人と考えていたのが4500人必要と判明した。それから2000人の確保に奔走することになる。つまり、開発技術者6000人の構成は、銀行本体のシステム部員:600人、銀行システム部門関連会社:900人、外部委託の技術者:4500人。(P26)

 

6000人は、ピーク時とはいえ、銀行システム開発やそのテストを考えて素人考えでの概算見積もりなどをやってみるのは、良い訓練になるかも知れない。少なくとも、どんな作業がありそうか考えて、本書での確認を行ったりするのは良い勉強になる。(正直に言えば、私は1桁違ってた。)

 

また、一度決まった要員数を大幅に超える見積もりが発生した場合の対応も、身近の対比を行ってみるのも良いかもしれない。外部の委託先人数は、倍近くに増えることになる。それを責任者に言うか、言っても「元の数字でやれ」とか「何故だ~」とか言われかねない。また、上がその人数確保に奔走してくれるか、、、、。

 

本書では、開発要員のために海外を含めた人材確保が書かれている。ただし、今回のプロジェクトが素晴らしいのは、「スキルポートフォリオマネジメント」を実施し、必要な技術レベルや開発経験などを一元管理した点であろう。そのマネジメントがプロジェクトの前から恒常的に行われていたことが幸いしたが、むしろスキルポートフォリオを行っていることに感心した。(P28)

 

グループの責任者を明確にしたり(P31)、ゴール設定(P39)なども明確に行われている。進捗管理なども具体的な事が書かれており、「そこまでやるかな~」と思えるほど細部にわたっている。また、開発ばかりではなく、移行テストのための工夫(P92など)などにも触れており、参考になる。

 

ページは少ないが、構築での海外製品(P69)やシステム構成(P71)も書かれている。また、データ移行の際のトラブルで、海外の開発本部への連絡と対応で乗り切った話なども紹介されている。(P206)

 

士気向上のための施策(P95~)が、結構面白い。はちまきを巻いた結束式兼出陣式の写真などがある。スクリーンセーバーやボールペンなども作成したとのこと。ちなみに、大漁旗の”統合丸”は、P149に掲載されている。

 

士気向上と関連するが、開発メンバーが増えたことでトイレ工事を行った話や弁当への配慮も行ったそうだ。トイレ工事は、床を上げて配管工事をして確保。1つのビルで男子用のトイレの便座45台を設置した。(念のためだが、この類は言うが易し行うは硬し。多少なりともファシリティが絡むことを交渉を経験したら分かる。)

 

上記も、”Day2では、そこまでやったのか~”の類と言えるが、テストや関連する作業にはさらに多い。旧データのデータ移行が必要となるが、そのための回線として、2社の主と予備の計4本を確保した。(P143) 現場のためのマニュアル作りなども細かく行っている。(P121) またデビットカード関連のテストでは、切り替わりの丁度午前6時を狙ってタクシーを利用してテストするなども行っている。(P141)

 

ちなみに進捗管理(テスト結果)の類がP58~。文字としてテスト密度やテスト実施率などが読み取れる。また、通常のシステム開発では、接続テストとして”ITb”と表記するが、Day2プロジェクトでは、接続テストを2回行い、ITb1、ITb2のテストを行っている。(P28) 

 

 

この本では、開発会社毎の記載が面白い。見積りやプロジェクト管理など技術系を主として記載してある会社もあるが、プロジェクト参加によるチーム形成の話が多い気がする。特に面白かったのは、ある開発会社での話。週2回の飲み会を行い作業の効率化が図れたが、一部のチームは毎日飲み会実施して回覧で”飲み過ぎ注意”が書かれたとの件。(P202)

 

 

ソフトウェアそのものの技術的な記載は少ないが、プロジェクト、しかも日本的なプロジェクトマネジメントとして非常に参考となる本である。ソフトウェア工学の観点では、細部のデータまでは識別できないとしても、ソフトウェアプロジェクトでの各種メトリクスや基本的な数値の実例、ドキュメント種なども書かれており好実例である。

 

思うに、Day2に多少なりとも参画した、日本の情報処理関係者が数千人レベルでいるということ。これは日本にとって、貴重な財産になるとも言える。皆さんの回りにもいるのかも知れない。いたとして、プロジェクトそのものを教えてもらうことは守秘義務などで難しいことが多いだろう。でも、自分のプロジェクトのことを話して「○○と思うけど、どうでしょうかね~」と、自分の考えに対する意見をもらうことは構わないだろう。そんなことのためにも、例えば本書のようなもので情報を仕入れて、よりハイレベルな会話が成り立つのは良いことである。それが日本のプロジェクト遂行能力の向上にも役立つことになる。

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