つれづれなる技術屋日記

しがない技術屋。専門は情報工学で、「つれづれ技術屋」って呼んで。

災害におけるIT ~ゼロからの視点~ 3(救助や復興)

災害に対する予報や警報を発したとして、次の課題は、能動的に避難してもらうことだろう。

ただし、結果的に避難が遅れたことの指摘は容易でも、避難する/しないの徹底には大きな課題がある。行政的には”避難勧告”は避難所への強制的な避難命令であるが、地震などは命令の発行やその徹底には時間的な余裕がない。雷や竜巻などは、注意報のような予報は可能でも、避難を命令するまでの時間や避難自体が効果的かとの疑問も発生するだろう。

ちなみに、避難勧告以外に、”避難準備”、”避難指示”もある。前者は老人などの災害弱者の避難実施であり、後者は勧告よりも強制的で罰則もある。

避難勧告等は原則市町村によるもので、防災無線やサイレンや広報車による呼びかけ、そして町内会組織や消防団を利用した口頭伝達などによる。従って、予報や注意報と異なり、情報伝達地域が狭いことになる。(多少極論だが)イメージ的には、予報が全国放送でTVなどにテロップが出るのに、避難勧告などはその市町村でのサイレンや広報車で知ることになる。

ちなみに、以下の放送研究と調査2010年10月号の「避難情報と放送メディア」は、避難に関する放送方法として参考になると思われる。

http://www.nhk.or.jp/bunken/resarch/title/month/2010/2010_10/index.html

ここに書かれているようなデータ放送等の利用や、地域FM放送、あるいは市町村レベルの避難情報の伝達サービスなどは重要である。平成の市町村合併を考えると、合併前より広域の避難情報伝達が必要となっている。避難に関する情報伝達は、防災での最も弱い部分のように思える。システム化も含め今後大きな検討課題であろう。(なお最近は、ちょっとした注意報や避難情報が、テレビでのテロップで出るようになったような気がする。改善されたのかもしれない。ただし、細部までは確認してはいないが、避難準備時点でのテロップまでだすかは? 予測的な情報としてメリットあることもあれば、その後に避難勧告にまで至らないこともあるので避難準備を広く流すことは一長一短ではある。これらの言葉の違いを知っておけば問題は少ないだろうが。)

ちなみに私事のようなものだが、今の住み家は横浜市の外れ。川を挟んでお隣の大和市の防災アナウンスが聞こえる。夕方の時報のようなものから、時々の行方不明者まで。洪水などの時に、果たして横浜市の警報は何処から聞こえることになるだろうと不安になるこの頃である。(なお調べたら、横浜市では以前防災無線に関して議論され、設置されないことになっているとのこと。ここに書かれた配信サービスに申し込んだ。 http://cgi.city.yokohama.lg.jp/shimin/kouchou/search/data/22001411.html )

原則市町村によることでの問題点も考えられる。行政的な僻地というか離れ地の問題である。これは避難時のみではなく、その後の救援活動、避難所生活にも同じような問題となる。

ここでの行政的な僻地は、飛び地のようなものもだが、例えば河川で昔の流れなどで川向こうに同じ行政地区があるようなケースもそうである。川の氾濫などを考えると、川向こうにまで広報車が回れなくなる事態が考えられる。さらには、今回のような震災の場合は、役場機能自体が移転することが考えられ、従来とは異なる避難や救済の方法の検討が必要となる。

また、個人的に少し厄介なことと感じているのは、町内会とか自治会への強制的加入との関連がある。強制加入は違法との判例もあるし、特に都市圏では加入を促すことが実質難しいであろう。その意味でも市町村レベルでの避難情報の伝達サービスは重要となる。(なお町内会や自治会への非加入者の件は、防災備品や救助での対応、一時的な避難時の食料などの利用を考えると、その後の避難所運営にも関連しかねない可能性がある。)

さらに言えば、数年前だったか消防用の半鐘の窃盗が相次いだことがあった。予防策も必要であろうが、防災用設備や防災備品に対する窃盗罪などは厳罰に処すなどのコンセンサスがあって良いと思う。

自主的な避難や避難勧告などによる避難の前後で重要なのが、救助依頼である。今回の震災では、避難所丸ごとでの救助依頼の発生や、電気や通信のインフラの被害、そして役場のような拠点の被害も発生した。救助依頼の情報伝達も、複数の手段を用意したり想定している拠点への連絡が行えない場合をも想定する必要性が増した格好になった。

救助依頼で重要な事は初動、しかも近所のような近くの人への伝達である。そのことを踏まえて、どんな情報伝達があるか、ゼロスタートで思いつくままにまとめてみた。以下では、不正確な情報や主観的なことも記載しているので注意。

https://spreadsheets.google.com/spreadsheet/pub?hl=ja&hl=ja&key=0At5_RJyc2TPhdG9HMldYX290N2xlTG5KMzZnQnR1OXc&output=html

なお、表には伝達手段のシート以外に、想定すべき状況も記載してみた。全ての状況へ対応できてコストも安く仕上がる手段には限界があるだろうが、例えば避難所の備品などの検討は必要と考える。(横浜市の避難所の備品に関するページでは、関連しそうなものとしては投光機がある程度である。ただし当然ながら、投光機の本来の目的は夜間作業の照明のため。これらは電話等での連絡が行える前提だから仕方ないが、今回の震災を教訓に一工夫すべきと考える。) 

これらの情報整理と今回の震災を考えるに、情報伝達手段として”音”と”光”は重要であると思える。物理的に2つは似てはいるが、収束性(集光性)との観点で音は制御しにくくて、光の方はレーザのように極端に集光するものは救助では短所にもなる。手に入りやすい事を踏まえると、自転車や登山用のランプ、防犯ブザーは有効に思えてきた。

GPSによる緊急通報位置通知に関しては、携帯電話への搭載や防災システムでの利用がTVに取り上げられたりしたが、今回の震災で有効に機能したニュースをあまり聞かない。そもそも携帯電話の通話やネット接続自体が困難だったのが大きな理由と思われる。

なお、今回の震災では、一般市民の水上バイクによる救助のことやアマチュア無線による連絡などもニュースになった。後者は地方によっては、”アマチュア無線非常通信協力会”という組織もあるようだ。アマチュア無線本来の意図との兼ね合いとの細部の調整が必要なケースもあろうが、防災での情報伝達では念頭に置いておくべきと言える。また、水上バイクの例にもあるように、趣味の世界が役立つことも少なくない。避難所での登山者のノウハウは役立ったと思われる。これらも上手く活用できるようにしたりできるようにする工夫も必要だろう。

その次のフェーズでは支援物資など、復旧や復興に向けた情報伝達が必要となる。今回の震災では、通信インフラの被害もあったり、自治体自体が避難したり場所が移ったりした。またニュースなどによると、物資が地域により足りている(余っている)所と足りてないところの差が激しかったことと、品目でのばらつきが大きく必要な品目は足りない状況もあったようだ。前者は、地域間もそうだが、県レベルでは届いているのに、市町村まで行き渡っていないなど。交通インフラの損傷もあろうが、支援物資情報の管理や伝達・運営方法の問題も大きくなかったと思われる。

・防災時のための品目コードとかがあると便利に思えた。あるんだろうか。また、実際に活動できるかは未知数だが、サービスなどもコード化した方が良いだろう。

食料品と言っても、非常に種類が多い。非常食でも固形的なものからご飯系などもある。品目をいくつかの階層に整理するだけでも、物資の欲しい所と集計するところの情報共有が行いやすい。また、食品に関しては、食物アレルギーの人への配慮も重要である。場合によっては、それらも明示的に品目コード化しても良いかと思われる。

サービスには散髪とか入浴などが考えられる。瓦礫撤去などもそう。行政自体での提供は難しくても、自衛隊とかボランティアへの依頼などを直接/間接的に行えるようにしておいた方がよいだろう。(阪神淡路大震災中越地震の際の婦人警官による活動や今回の震災での女性自衛隊による”御用ミッション”などの話を聞けば、サービスや品目コードを明確にすることで頼みやすいなども起きてくると思われる。)

・要請情報の管理を行わないと、2,3週間後に(もう)不要になった品物が届くことも考えられる。言わば注文とキャンセルを、要求元と集計側で情報共有できる必要がある。手配中や継続検討とか却下の状態が識別できるべきだし、100個のうち50個は届けたなどの進捗なり達成率のような把握も必要になるだろう。

なお、要求元は避難所であったり自治体であったりするが、集計側は都道府県の場合が多いとしても、都道府県自治体以外の場合もあろう。医療品などのように、特定商品で無いと不都合なものや専門的な知識が必要なものもある。

・復旧や復興に関しては、多くの組織体が関係してくる。例えば、ボランティアの受け入れ窓口を、社会福祉事務所にするケース。協会とか委員会といった名前の組織体もあるだろう。

これらの組織体は各自治体毎に存在するケースが多く、他の自治体に属する団体との連携や情報共有が進んでいないケースが多い(と思われる)。市町村での情報を県単位でまとめるなどの情報共有も必要であろう。また、自治体との連絡や連携が、災害時に迅速に行われているかも疑問である。情報ネットワークという意味では、自治体とこれら事務所や協会との情報共有に関係する。定常時はメールなどで十分だろうが、災害時の担当者の死亡や行方不明まで考えると、MLやSNSのような手段を考えるべきではないだろうか。

自治体自体が震災に遭遇した場合の、救援や復興のための情報通信のあり方は大きな課題となる。特に今回の震災では、いくつもの自治体で発生し、戸籍や住民台帳がデータとともに消失したとのこと。(調べると、どうやらバックアップのデータは無事だったらしい。)

それらの情報のリカバリや、そもそもの(暫定的な、最低限の)システム構築が必要となる。今回の震災では、いくつかのメーカーからクラウドサービスの無償提供などもあったようだ。これらの活用は今後増えていくかもしれない。また、通信インフラの損傷の場合での通信方法の確保や、場合によってはシステム運用の場所を別途確保するなども必要かもしれない。

避難所間の情報共有(特に行方不明者の検索)や、自治体間の情報共有のあり方も課題となろう。その際の大きなネックが、特に前者の個人情報との兼ね合い。番地まで含めた住所とフルネームの方が情報の信憑性なり確実性は増すが、悪用の懸念がある。今回の震災では町名とフルネームの組み合わせが、(広く情報を流す場合に)多く行われていたと思われる。

自治体間の情報共有のあり方は、行方不明者に関する情報共有もそうだし救援物資のとりまとめなども、個々の連絡よりも情報共有して進めるべきと考える。さらには、被災自治体への応援などを考えると、自治体間の掲示板のようなシステムも検討しても良いのかもしれない。姉妹都市間のような限定されたものから、多少全国的な自治体を網羅するようなシステムを踏まえたものまで様々であろうが、、、。個人的には、後者のようなものも検討の余地はあると考える。

ただし、大前提となるのは、情報共有は複数の媒体にして情報経路も複数確立しておくべきであるという点。今回の震災では、消息情報としてGoogleのPerson Finderが話題となった。NHKでの「安否情報ダイヤル」情報との連携や、人出による避難所での情報→文字化作業なども行われた。携帯各社の災害用伝言板災害用伝言ダイヤル、安否情報の登録・確認も広く認識されたようだ。またコミュニティFM局(含む臨時災害放送局)の活躍もあった。(複数の媒体の視点でも、FM放送はラジオ形態なので、聴覚障害の人のことを考えても、TVやインターネットを含む視覚的な情報伝達も必要である。)

さらには、被災者のためのコンテンツ配信(特に著作権絡み)への配慮も必要になってくる。今回の場合は、NHK教育では子供番組の放送は早期に元どおりに行われた。心のケアに配慮してのことである。また、一部の子供番組はインターネットで閲覧できるようにした。著作権絡みでクリアすべき課題もあろうが、このような方法は今後行われていくだろう。

復旧/復興を情報通信の視点で考えれば、インフラの復旧やシステムの再起動になるだろう。言わば定常状態への復帰。思うに、複雑なシステムは社会自体の複雑化やニーズの多様化で必然的と言えるが、災害時の復元となると基本部分や基本機能の復帰が急がれる。その意味では、システム化の際に、必須項目事項だけを復旧できる構成などは考えておくべきかもしれない。必須項目のみの復旧とは、部分的な動作で消費電力を落とすとか、データは一時保存のみ行っておくとか、、、、、。今回の震災を期に、システムのロバスト性を高めたり、その思考を行っておくことは悪いことではない。

また、震災の教訓は活かすべきである。復興宣言などをプロジェクトやシステム開発での”振り返り”と考えれば、救助や復旧/復興のための活動のとりまとめなども必要であろう。政府としては、内閣府であり、白書としては「防災白書」が該当するかもしれないが。ただ、書籍やネット上の情報では、県とかの自治体の方の情報が分かりやすいとか具体的に思える。震災の教訓を、防災につなげるべきだろう。ちなみに、阪神淡路大震災関連として、兵庫県の”神出自然教育園”の震災学習棟には仮設住宅が保存されており教育などに役立てているという。

ここでは、東日本大震災を中心として、災害時のIT(情報技術)、情報通信について考えてみた。単なるバックアップや予備手段の視点より、原点に立ち返っての検討や原始的な情報通信の視点で災害時への対応を考えたつもりである。犠牲者の方々のご冥福をお祈りするとともに、自分の所属するコミュニティなどでの防災検討での一助になればと思う。

©2005-2022 ほんだ事務所(honda-jimusyo) All rights reserved.