つれづれなる技術屋日記

しがない技術屋。専門は情報工学で、「つれづれ技術屋」って呼んで。

「ソニー半導体の奇跡」と”ソニー流シックスシグマ”

しばらく前に購入した本に、「ソニー半導体の奇跡 お荷物集団の逆転劇」がある。本屋での平積みで目にしたのが先か、新聞広告で目にしたのが先か、良く覚えていない。ソニーの、2月とかでの純利益過去最高予想とか、3月下旬での年間ボーナス6.9か月の報道などの回復振りを目にして興味を持ったのである。

 

製造業というか電気系大企業に関わる、業績回復の類の明るいニュースは、久しく目にしてない気がした。本の広告や、本の帯での「逆転劇」とか「どんでん返し」が、V字回復を連想させて参考になる面がありそうと感じた。また、神奈川県厚木市を「辺境」と表現しており、ちょっとした小気味良さと、逆にその辺りに回復のキーポイントがあるかもと思った。

 

また、ソニーに関するここ十数年の書籍では、この本でも触れてる「ソニー本社六階」などを含めて、内部批判的な本が多い。それらの一部しか読んでないが、そこまで言わなくてもみたいな表現も少なくなくて、気持ち的に前向きになれなかったこともある。その意味でも、この本は少し前向きに思えて興味を持った。

 

f:id:honda-jimusyo:20210613174125j:plain

帯ありの状態。

 

f:id:honda-jimusyo:20210613174156j:plain

帯無しの状態。

 

 

なお、以下の感想での(P )内などは、本書でのページ数。

著者の斎藤端氏は、1976年ソニー入社、企画畑が多く、ソニー半導体グループ副本部長やソニー執行役などを務め、2015年退任。(退社なのかは? ちなみに2014年にメディカル事業担当だったようだ。)

この本は、斎藤氏の目線で、ソニー半導体グループの”逆転劇”ぶりが述べられてる。そのため、戦略に対する反対意見を含め様々な意見、そして役員などを含む様々な人たちの思惑のようなものが主となっている。反対意見や思惑の相違がそれなりに書かれているの。そのため相当前にソニーの製品や社内体制に関するルポライター的な本などがいくつかあったが、成功?結果から逆算するように述べられているものと対比的である。逆に、企業人としては、そのような混乱時が結構な悩ましく、ソニー半導体でも似たようなことが起きたんだ~と思わずにはいられない。

また、この本での半導体での大きな転換として、CCDイメージセンサーCMOSイメージセンサーがあることもあって、これら半導体に関してページを割いている。著者が社内役員等を務めたことで、多くのソニーの役員などや、そして社外の経営陣などが多く登場する。記述が長期間にわたることもあって、他の人が味方というか同陣営なのか、敵というか反対陣営なのかが変わったりする。各人の性格的なことによる言動もあるが、読者としてはそれぞれの人をすぐにイメージできないことも少なくないと思われる。経営人レベルの話題としては、海外を含めた要人との会食やステータス構築の話題も所々出てくる。読者によっては、半導体部分はある程度読み飛ばすしたり、経営陣に関してはある程度予備知識を入れておいた方が良いかもしれない。

 

ソニー半導体のV字回復の理由を知りたいとの思いで読むと、少し拍子抜けかもしれない。個人的には、ソニーの複数企業としてのグループの多彩さ、設計開発のスピードアップのための熊本へが大きな理由と考える。細部は後述するが、そうだとしても本書での記述では紆余曲折とか、激しい対立があり、トントン拍子というわけではない。ついつい、たまたまラッキーだったのではと思えるくらいである。戦略に対する計数的な検討の場面も紹介されるが、大きな決断ではそれ以外の要素が大きかったように思える。逆に、他企業等の立場で読み進めるなら、「銀の弾はない」とか「犠牲と代償」について思いを新たにする気がする。

 

CCDイメージセンサーCMOSイメージセンサーでの話でのキーマンの一人が、ゲーム機プレステ生みの親の久夛良木氏。当時は半導体事業部長を兼務していて、CCD増産停止を宣言する(P29)。既にカメラメーカーからの増産要求もあってCCDの担当者は大変苦労したとのこと。本書では大変苦労と表現してるけど、多分相当なバトルがあったと予想する。ただしがあって、その担当者の、CMOSを加速させたのは「久夛良木さんのおかげ」との言を記している(P30)。

そもそもソニー半導体の宿命として、外販と社内利用なりグループ企業への販売がある。裏面照射型CMOSイメージセンサーの個所では、新製品の販路として他社に活路を見出す(P128)。製品群ではライバル関係でもある、キヤノン(P133)やオリンパス(P137)との絡みも記載されている。半導体を含め外販と自社内販売の利益相反は良くある話であり、各社色々工夫してるだろうが、この本では過去の出入り禁止の伝説(P137)を克服してのアプローチなどの話もあって、外販へ前向きでの参考となるのが良いと思う。

半導体(あるいは液晶)に関しては、他社でも部門を切り離したり、複数他社を含めた企業化などを行っている。本書ではハワードストリンガーCEOによる半導体事業売却の話し(P59~)、逆に数年経ってからの長崎工場の買戻し(P198~)と、両極端?の話が出てくる。後者では、簿価とかソニーに復帰したことになった社員の話などもあって、参考になりそう。

CMOSイメージセンサーの強化のための大きな作戦が、開発部門の熊本移動。上述の厚木での開発部隊を生産拠点の熊本へ移動させるというもの。研究開発→生産のスピードアップを意図してものの。P152 辺りから書かれているが、総数約170人。家族の自家用車の心配など具体的に書かれている。当然だけど、スピードアップのための技術的課題のクリアーもある。本書を通じては、個人的には研究開発部門の協力があってのことというか、ラッキーだったのかもと思えてしまった。

これらが、ソニー半導体のV字回復として個人的に考えられることかなと思った。逆に、こうも多方面に外販している企業はそうないし、事業部というか工場の買戻し辺りになると少し特異なケースと言えるかもしれない。

 

半導体の事業編成に大きく関わるのは、「東芝」。そして技術的な提携辺りで関わってくる「IBM」との本書での話しは、結構面白い。特に東芝は、東芝本体での稼ぎ頭として新聞等に以前は大きく取り上げられてたのが、急落したとのイメージ。本書では、上述の長崎工場の買戻し等にも大きく関係している。

本書での東芝がらみのエピソードとして、個人的に興味あったのは2つ。P208では東芝のお偉いさんが、ソニー側の人の名刺を目の前で折り曲げたという話し。”ソニー以上の野人がいるものだと衝撃を受けました”と表現している。自分達も野人と少し認識している部分には多少苦笑だけど、こういうところが企業の合従連衡での基本部分かと改めて思った。

もうひとつは、東芝→引き抜きでソニーの役員になった人のエピソード(P40)。ソニー厚木の社員食堂で、社員を前に「東大の卒業生のうち一番優秀なものはまず東芝に入社し、、、」、残ったものがソニーへ、そしてそれが東芝半導体が世界一との話。ただしがあって、筆者の感想としては嫌みがなく東芝IBMと協業する意義を伝えたかったのだろうとしている。

 

IBMとの絡みも色々書いてあるが、ソニープレステ用のCellと似て非なる技術をマイクロソフトに提供した件(P33)や、半導体部門売却に関連して契約の見直しでの交渉(P66)の様子が個人的に少し印象的だった。ただ、この2つは、契約にまつわる難しさやちょっとした交渉術の話。個人的には、前者は少しあるものの、IBMへの感情的な考えでもないと感じた。

 

なお、ソニーOBにも触れている。電機業界の人が韓国等へ高額で引き抜かれた話は有名であるが、そんな人の話(P158)にも触れ、研究所長になり厚遇だったそうだと記している。あと印象に残ったのが、ソニーOBにLSI開発を持ちかける話(P190~)がある。後者も、感情的なことよりも、共同開発費の捻出を他の事業部との相談とか本社の開発費制限をどうかいくぐるか話が主となっている。なかなか微妙なバランスだな~が個人的な感想。

 

著者は長く半導体事業に携わってきたこともあって、半導体事業に関したり、経営陣絡みの意外なソニー面も述べられてる。品質トラブルに絡むワイブル分布(P49)、半導体事業売却に関するストリンガーCEOとGE元会長のウェルチの絡み(P59)、創業者井深のICやLSI嫌い(P93)、社内関係を心配しての秘密裏プロジェクト(P134)、キャッシュフローマネジメント(P173)、改善活動での金塊の発掘(P177)、他事業本部の兼務と駆け引き(P180~)、経費というか開発費の本社とカンパニーとの関係(P193~)など。「金塊の発掘」ってうまく表現できないが、興味あれば本書を読んでもらえればと思う。

 

長く携わってきたのの典型に思ったのが、本書の最後の方で述べてある新入社員への質問への返答。著者が副本部長の頃、新入社員がCMOSイメージセンサーに関して質問。ソニーのCCDは負けちゃいないと、その時は返答したとのこと。ただ、今となってはこう答えるだろうと、創業者の精神という言葉を交えて書かれている。その辺りがこの本の本質と思えるし、ここも興味あれば本書を読んでもらえればと思う。

 

 

 

さて、このブログのタイトルでの後半部「ソニー流シックスシグマ」。もう何年も前に”シックスシグマ”が、日本でも大きく話題となった。導入した企業は、アメリカでは、GEとかモトローラが代表格。日本では、東芝ソニーが導入し、雑誌や新聞で大きく取り上げられた。

ソニーの場合が半導体事業部導入で、個人的に、ソニー半導体と聞くと、シックスシグマが思い出された。しかも当時、GEでの本家?シックスシグマをそのまま適用したわけではなく、ソニー流にアレンジしたとの話が多かった。講演等も少なくなかったと思う。昨今良く言われる「テーラリング」を実践してたと言っても良い位である。

 

逆に、以前ほどシックスシグマを目にする機会が無く、前述の企業で、シックスシグマが数年に渡り導入効果があったのか気になっていた。そして、テーラリングで対応したと言っても良い「ソニー流シックスシグマ」の方が、効果が出たのか気になってた。今回の「ソニー半導体の奇跡」で、その辺りに触れているかと気になって読んだ。本書で東芝との関係に関して所々書かれており、同じようにシックスシグマを導入した2つの企業を対比的に考えられるかもと気にしてた。個人的に、そのまま導入した東芝と、自社流にアレンジしたソニーとを対比できるかもと思ってのこと。

 

しかし、そんないきさつもあって「ソニー半導体の奇跡」でシックスシグマ に関して注意して読んだ気がするが、それらしき記述が見つからなかった。残念。

 

ならばと、ネットで調べたが、短いニュースやそれに近いネット記事は少し見つかった程度。また学会誌等での論文の類で残っているのを目次レベルで目にした。数年とか10年を超えて、成果まで言及するのはネットを含めて難しいのかもしれないと感じた。

 

なおネット上で、ソニー流シックスシグマに関して、それなりのボリュームだったのは以下の2つ。

xtech.nikkei.com

2004年掲載となっている。3回掲載としてるが、リンク先が雑誌の目次で、記事自体の関係が今一つと思えた。

 

xtech.nikkei.com

 こちらは、3回としててリンクもあるが、ネット上には上下の2つしかないように思う。2014年掲載となっている。

 

 この2つの記事は、実際の中身は(当時の)ソニーの人によるもの。掲載が10年違うが、著作時の違いなのか、書下ろし等のように構成等を少し変更した後の日付なのか余り良くわからなかった。3回と書かれてるのに上下しかないなどの混乱とか、シックスシグマに関して自分の理解が浅すぎるのが理由かもしれないが。

 

なお、ネットでだったかフランクな勉強会でだったか、「ソニー流シックスシグマ」は、ソニーのQC活動をベースにして用語の類と補足的なものをシックスシグマに合致させたと聞いたような気がしてた。そういった情報がネットに残ってないか色々調べたが、なかなかヒットしない。本を読み終えた後で、この調べにやたらと日数がかかった。

その調べの間に、ソニー半導体の広報誌みたいなのがネットにあって、上の2つのネット記事よりもフランクに述べられていると感じたものがあった。その時ちゃんと保存しとけばよかったが、ソニーの組織変化の関係と思われるが、直近ではそれも引っかからず。今となっては、両方とも、こちらの勘違いかな~と思えている。

 

 また、「リーンシックスシグマ」なる考えもあるようで、複数の本が出ている。

 

 右側の日本規格協会のものをサラッと読んだけど、そもそもシックスシグマへの理解が深くないせいか、手法としてよく理解できなかった。ネットとかで調べると、最近でもぽつぽつとセミナーみたいなのがあるようで、実践してる所や、実践しようとしている所があるのかもしれない。

 

 

ソニー半導体の奇跡」を読んで、10年とか20年あるいはそれより長いスパンで、企業の栄枯盛衰について思いを巡らすのは悪くないと感じた。そして、社内改革とか製品ポートフォリオの在り方、そして変革のためのツールをテーラリングを絡めて考えるのは有益と考える。まっ懇親会などで機会あったら、ソニー半導体でのシックスシグマって結局どうなった/どうなってるかを、話題にしてみようと思う。

 

 

©2005-2021 ほんだ事務所(honda-jimusyo) All rights reserved.