つれづれなる技術屋日記

しがない技術屋。専門は情報工学で、「つれづれ技術屋」って呼んで。

日経SYSTEMS 2月号 「日本のソフトウェア契約はもう古い」

最新の日経SYSTEMS 2月号の表紙で、特集2「日本のソフトウェア契約はもう古い」が目に飛び込んできた。目次での絵を見たら、ペリーらしき人物が契約書を持ってるイラスト。誘導が上手くて^.^;、本文の方も読むことにした。

http://ec.nikkeibp.co.jp/item/backno/OS0262.html

タイムアンドマテリアル(T&M)契約など、米国で採用されている契約形態が表になってて分かりやすい。日本での請負契約やプロセスを絡めた説明も良くまとまっている。ただし、後半の米国ITコンサルタントからよく言われるという「なぜ日本ではこんな古い開発プロセスウォーターフォールモデル)を続けているのか」のあたりから、個人的に少しカチンときだした。新しい・古いという尺度しかないのかと言いたくなるし、じゃ「オバマケア」のトラブル状況はなんだったのかとか言いたくなってくる。

少し冷静になっても、後半部分に、じゃどうしたら良いかとか解決策の例示が無いのが残念に思えた。例えば、IPAでは「非ウォーターフォール型開発に適したモデル契約書」に対する案を公開している。(ちなみに以下は改訂版。)

https://www.ipa.go.jp/sec/softwareengineering/reports/20120326.html

契約書案以外に、何年か前には、非ウォーターフォール型開発に関連して海外での契約形態をまとめた資料も公開されたはずだ。

結局、IPAでの案などいろんな形態の契約を参考にして、プロジェクトマネージャーが法務部門と掛け合って契約書にする必要がある。日本の契約が古いのなら、その辺りの交渉をちゃんと行おうという、気概のあるプロジェクトマネージャーへの提言があっても良かったと思った。

例えば本号に、IPAでの「基本/個別契約モデルの個別契約書案(請負型)」をベースにしたソフトウェア開発の雛形を法務に認めさせたなんていう事例が書かれていれば、もっとじっくり読んだんだろうけど、その辺りに踏み込んで書かれて無い。

さらに言えば、大抵の契約書には、”準拠法”と”第一審の専属的合意管轄裁判所”をどこにするかが書かれている。国内契約(東京都に本社のある企業)だと、日本国法律と東京地裁というケースが多い。これらは、ソフトウェアの使用許諾などに書かれていることが多いから、目にしたことがあるかもしれない。海外製だと、ニューヨーク州法が準拠法なんていうのが少なくない。

日本の請負と準委任が古い(問題)なら、準拠法をニューヨーク州法にするのも考えとしてはある。そこまで提言として踏み込んで書いてあっても良いかと思う。でも、国内のIT案件で、準拠法をニューヨーク州法にするなんて荒唐無稽。まずは法務が許さないだろう。やれアメリカの方が良いというのなら、裁判になってニューヨーク州法で対抗できるぞというプロジェクトマネージャーなら、どうにか法務を説得できるか、、。

アメリカの開発プロセスを良しとしたり向こうの契約が良いとしても、それを(特に後者)採用するには法律・判例とか裁判への対応が必要である。それらを踏まえての判断が必要だろう。

日本企業もグローバル化してるので、企業によっては海外SIの案件も増えてきている。あるいは、海外子会社での契約に目を光らす必要も出てきている。法務としてはいろんな契約形態があるだろうけど、雛形的には**と@@にするなどいくつかに絞っておかないと手間がかかる。契約雛形(ベース)を決めて必要に応じて後は記載社名の変更程度にするとか、個別での細部変更程度で済ませたい。法務だって、そう個別の案件に対応する時間はなく、買収など超ビッグな契約への対応も必要だ。それらも踏まえて、法務と掛け合うくらいの覚悟は必要だろう。

本号の見出しが少しセンセーショナルだっただけに、その辺りの踏み込みが無かったのが残念だ。

(個人的には、旧来の日本的契約をベースにしてプロジェクトに応じた変更を法務と交渉している人もいて、むしろそちらの方の対応の方が評価できると考えてはいる。)

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