つれづれなる技術屋日記

しがない技術屋。専門は情報工学で、「つれづれ技術屋」って呼んで。

定常業務とプロジェクト

ここ2年近く、プロジェクトマネジメントの講演や会合などで”プロジェクトの終結後、定常業務へ”との文言が気になってしまっている。定常業務へ移行するとか、定常業務メンバーに引き継ぐとかの表現がされる。

 

以下の図は、 http://www.pmdi.jp/article/14196510.html からのものだが、PMOを絡めたより詳細の図もあるようだ。(元々はどこでの図かと探したが、はっきりとは分からなかった。)

 

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プロジェクトと定常業務が対比的に書かれている。

 

ITの場合、設計開発が行われてカットオーバーされたら保守要員に引き継ぐ事が多くて、定常業務への引き継ぎとの表現には馴染みがあるのかも知れない。建設などでは、メンテナンス会社への移行のイメージだろうか。

 

ただ結構、サービスのために中盤や終盤からサービスメンバーの引き継ぎのためのプロジェクトや教育が始まることがある。逆に、製品開発で出荷後に開発者が更新プログラムをリリースすることなどが行われている。それらのために、「定常業務への引き継ぎ」に少し違和感を覚えてきた。

 

また、プロジェクトでも、会計や購買とか人事関係とかの部署の助けを借りることが少なくない。そのような部署のメンバーの活動はむしろ定常業務に近い。

 

建築現場を考えて見ると、作業自体はルーティンワークにも見える。研究、設計・開発も同様である。結局は、定常業務とプロジェクトとしての見方での区別や、定常業務とプロジェクトの作業割合による区別かも知れないと考えるようになった。よりプロジェクト的なのか、より定常業務的かの違い。(ちなみに、昔「タスクフォース」という言葉が使われた時には、普段の業務とは別作業を意味して、”タスクフォース専従”メンバーという言い方をしたりした。)

 

トヨタに主査(最近はチーフエンジニアと呼ばれるそうだ)という職種って、メンテナンスを含めて面倒を見るというかプロジェクトを統括する。日産やホンダといった企業も全く同様かは不明だが、似たような制度と思われる。以前このブログで「プリウスという夢」 というのを書いたが、ラインオフ時に既に次のプロジェクトに参画している開発関係者が少なくなかったことなども象徴的と言える。

 

そのようなことを考えると、各自の作業が、どのプロジェクトに属するかとか定常業務に属するかを経理的に把握することが重要と言える。そうしないと、特定プロジェクトが赤字なのか判別できない。

 

ちなみに、製造業では、製品の研究や開発、市場化で投入できる工数の番号(記号)を区別して、研究→市場化をトレースできるようにしているところがある(多い?)ようだ。したがって、運用的には、作業区別を行えるようにしてあるし、赤字プロジェクトかの判断も行っていることは想像に難くない。個別製品の場合などには、「製造指示番号」で区別・管理することもあるようだ。

 

会計ソフトでは、一般的な会計管理に加えて、プロジェクト管理会計の機能を備えていたりオプションで追加できるようにしてあるものがある。実際に利用してある企業も少なくないのだろう。

 

それらを考えると、示した図での定業業務/プロジェクトという二律背反で考えることが良くないと言える。あるいはモデル的にはそうでも、それらがミックスされた状況を考える必要があると言える。

 

なおプロジェクトの中盤では、むしろ大抵の場合は、各自の作業は定常的に行われるのに近い方が良いかと思える。ある程度、定時で作業が終了できるイメージだ。ソフトウェアの開発でも同様だ。プロジェクトの開始時や終盤ではそうも行かないだろうが、中盤で作業量が想定と大きく異なるのは避けるべきだろう。

 

 

プロジェクトをプロジェクト/定常業務、プロジェクトメンバー/定常業務メンバー、プロジェクト工数/定常業務工数などで考えたり、それらとプロジェクト工数やプロジェクト予算との関係や把握ができているかを考えてみるのは良いことであろう。

 

 

追記:プロジェクトと定常業務を全く対比的に考えたり、運用を定常業務への引き継ぎとの発想では、いわゆる”DevOps (a portmanteau of development and operations)”の課題をうまく対応できないと言える。ちなみにDevOpsは開発・運用の相互依存のことであり、アジャイル開発等では開発と運用を一体化した方が良いとの考えと言えるだろう。

 

 

追記:以下では、「定常業務にプロジェクトマネジメントを適用すると収益が下がる理由」を述べている。

 

http://pmstyle.jp/honpo/note/note167.htm

 

定常業務化した方が収益が上がる。逆説的には、プロジェクトは独自性を持つため、どうしても作業の継続的な効率化に結びつきにくい。本サイトにも書かれているように、”できるだけ多くのプロジェクトを定常業務として行うことが求められる”。

 

プロジェクトをマネジメントする際には、プロジェクトに関係する定常業務や定常業務化なども念頭に置くべきだ。

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