プロジェクトマネジメントの講演や勉強会で、時々話題となる単語が”ポートフォリオ”。
代表的なPMIの日本語訳の本が、左の「ポートフォリオマネジメント標準」。既に第2版で、手元にある第1版(第3刷)は2008年9月発行されている。
プロジェクトマネジメントの規格化などでもポートフォリオの議論は行われているように聞くので、PMI関連(特にPMPメンバー間)だけでの話題ではないと思う。なお、ここではプロジェクトポートフォリオと書くが、各プロジェクトの継続や中断を判断するのだから、組織的にはプロジェクトの上位クラス(部とか事業部など)がマネジメントすることが普通だろう。
思うに、会合等で「ポートフォリオマネジメントが重要です」との意見などにはなるが、プロジェクト視点での突っ込んだ話が少ないような気がしている。(これは自分がポートフォリオ研究会などに属していないかもしれないが、、、。)
そもそも”ポートフォリオ”は、適切な日本語訳が無いようで、カタカナ語のままというのも突っ込んだ議論が少ない理由かも知れない。ただし、昨今は株式投資での銘柄の組み合わせとか、そもそもいくつかの金融資産の分散投資で言葉としては馴染みが出ている。あるいは企業経営での、製品ポートフォリオとか事業ポートフォリオという用語は使われることが少なくない。
研究開発に関連した製品ポートフォリオでは、市場規模が小さくなったりや利益の見込みがない製品の開発を止めたり、自社の商品ラインナップから外す事が検討される。プロジェクトポートフォリオでも、それを基にしたような同様の話が少なくなくてどうも腑に落ちない。
一方で、「一度走り出したプロジェクトは止められない」との意見も人もある。極論すると、プロジェクトポートフォリオを考える意味がないということだ。
それらを踏まえてポートフォリオを考えると、そもそもITプロジェクトとか建設などのプロジェクトでは、(一括)請負での作業が多い。契約を締結している場合がほとんどだろう。となると、プロジェクトの中断や廃止は、基本的に契約解除を意味する。プロジェクトポートフォリオを考えるという事は、契約解除(状況によっては、契約違反や損害賠償)での損得を考えることと同様だ。どうもその辺りの損得勘定の議論が少ない(皆無、あるいは聞いたことがない)のが、自分の突っ込んだ議論が少ない印象に結びついてるような気がする。
昨今のソフトウェア開発での請負契約では、セキュリティの関係等で損害賠償の上限を契約に盛り込もうとする動きも少なくない。注意して作成して納品しても、その後セキュリティホールが見つかってトラブルになる可能性を危惧してのことである。上記で一括と書いたが、プロジェクトのリスク回避のためなどで契約を多段階に分けることも行われている。従って、契約自体に賠償の上限を記載したり、それらが多段階になっているなど複雑になって事が多いと考えられる。実際の契約解除では、それらを踏まえての判断が必要だ。
ちなみに、ここ2,3年、IT系で話題となったのに、スルガ銀行の勘定系システム開発に関する裁判で約74億円の賠償を日本IBMに命じる判決があった。ネット上の記事としては、例えば以下。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0902S_Z00C12A4000000/
上記での発注側の視点では、概算で支払った分しか損害賠償として認められなかったことになる。なお一般的な工事請負では、工事着手してからの著しく工期の遅れなどが発生しない限り、一方的な契約解除は不可である。(手付けの場合に、買い主の倍返しでの解除などが可能。)
プロジェクトポートフォリオでは、より契約や発注側/受注側を意識した検討が必要と考える。また、プロジェクトポートフォリオマネジメントの事例として、スルガ銀行の勘定系システムの開発中断や中止をどこで判断すべきだったか考えるのは有益と考える。